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栃木口語り・吹上現代故老に聴く―語り言葉で紡ぐ郷土誌

 平成22年(2010)11月に『栃木口語り 吹上現代故老に聴く』書は、野村敬子と原田遼との共著で国学院大学栃木短期大学の「口承文芸セミナーの」からの発信によって瑞木書房より発行されている。冒頭に、口承文芸研究者である野口敬子によれば、『口語り』とは語り手が対座して聴き手に対して自由に心に浮かんだ出来事について言葉が紡ぎ出す営みをさすとし、本書を『語り言葉で紡ぐ郷土誌』を指向するものとしている。

 栃木市吹上在住の三人の故老が幕末から明治・大正、昭和の太平洋戦争終戦に至るまで吹上地域にまつわる先祖から伝わる話、麻の生産や実際に見た戦争のことなど地域の歴史の口語りが記載され、最後には幻の郷土誌・大正2年(1913)発行の『吹上郷土誌』全編が載っている本だ。

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 始めに栃木市遺族会会長をしている伊津井喜市さんの吹上の歴史、吹上城、皆川から上総国五井から転封してきた有馬氏による吹上藩、麻つくり、伊吹山「もぐさ」、「しめじが原」、吹上役場などの語りがある。

Photo  次に330年以前から住んでいるという塩田保さんの『口語り』では「吹上藩斬妖事件」、当地の偉人として自由民権運動、田中正造らと国会議員として活躍した塩田奥造の米山薬師にある顕彰碑の話から始まり、昭和38年吹上中学校の整備拡張 《吹上城址に建つ吹上中学校》              の際に見つかった吹上城の抜け穴や、戦後の教育改革で新生中学校を始めて村で作り上げた村立吹上中学校の話が出てきて興味深い。

 中でも明治16年~18年までつづく栃木県庁の栃木から宇都宮への移転をおこなった三島通庸県令との間に起きた「加波山事件」と自由党へ取り締まり。『三島県令はかたっぱしから自由党員を捕まえろと命令して、縛りあげたもんだから、栃木の町の荒物屋の縄が亡くなったとか、刑で亡くなった福島県の相馬藩士の杉浦吉副は栃木の満福寺に葬られている』とういう語りが出てくる。三島県令による県庁移転の決断をした確かな史料は存在していない。『どうして、県庁が宇都宮に移ったの』という子供達の質問。私達は明確に答えることができるのか?。 塩田家に伝わる郷土料理の「シミツカレ」「シモツカレ」、終戦時に吹上小学校に駐屯していた拓部隊、食料増産のため焼夷弾の焼カラで鍬にして各学校に配給があったこと。戦後の教育改革で新生中学校を始めて村で吹上中学校を作り上げた話等、語り継ぐ必要を感じた。 

 3人目の唐木田利伊さんの話は家業が麻の生産と仲買のため、麻をめぐる話で『現在この地方で麻を作っている農家はたった七軒。大麻は麻薬で毒もあります。しかし今は改良され麻薬の成分は少ないです。昔、麻畑の傍の草を刈り取っておいたものを馬や牛に食べさせたら具合がおかしくなる。人も腹が張ってくる。麻作りは農家の皆、大変な仕事でした』と語り、農家の嫁の評価から現在『下駄の鼻緒のシンとか、草履の鼻緒のシンとか、また最近では神社神社の鈴縄を奉納する神社が注蓮縄を作る。全国の90パーセントは栃木県産です。栃木県といっても鹿沼と栃木でも七軒でしょう』と語り、明治時代が最も大麻生産が盛んであり、栃木は下駄の産地、鼻緒のシンナワが必要であったと語る。余談ですが、この唐木田利伊さんは私の縁者です。私の家は「下駄」を作っていた。麻と下駄の関係で母親は昭和の初期に父親がやっていた栃木町の下駄屋に嫁に来たのかもしれない。

Photo_2  語りはさらに正仙寺の檀家総代から戦争中に国に供出された東善光寺の『梵鐘』を昭和63年に戻す話は貴重な伝えとなると思え感心させられる話である

 《東善光寺の鐘楼》

 

最後は終戦時に出征兵士の見送りは威勢よくバンザイと言って送り出すことが禁じられ、一人の見送りしか許されなかったことが語られてくる。映画のシーンのような万歳での見送りは終戦ま続いたと思っていたが、違うことを知った。

 この書に記載されている大正2年8月25日発行の『吹上郷土誌』はじっくり読みたい郷土誌だ。幕末の天狗党・出流事件・戊辰戦争への吹上藩のかかわり方や明治期の、鍋山と栃木駅を結んでいた人車鉄道の話(後日、銀次のブログに記載予定)等が多数記載されおり、前段の3人の故老の語りとつながりを感じた。

 著者の原田敬子は書の途中で『不特定多数の人が繰り返し語り継いだ、公共の知としての「伝え」が全てです。それら不特定多数の人々が継承してきた「伝え」を聴き取ることによって、共同体や地域を構成してきた多様な文化や精神風土を理解できると考えられるからです。、また「口語り」は共同体が継承している生活文化や心情、構成員としての心意など言葉で「伝え」るものです』と語っている。口承文芸書は郷土史を研究する者にとって必読な史料になる。

                        《夢野銀次》

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