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映画「悪人」「フラガール」-それは『再生』だ

Photo  李相日(りさんいる)監督作品、『悪人』平成22年(2010)公開と『フラガール』平成19年(2006)公開の2作品をDVDで観た。『悪人』は『告白』と並び2010年度の代表作品であり、深津絵里がモントリオール世界映画祭で最優秀女優賞を受賞し、映画界の話題をさらった。

 遅まきながら映画館ではなく、DVDで字幕入りでの観賞となった。原作者の吉田修一が脚本に加わり、セリフと画面とが重なり、登場人物の内面が観るものをひきつけた映画となっていた。映画のキャッチコピーは「ひとつの殺人事件。引き裂かれた家族。誰が本当の“悪人”なのか?」。殺した者、殺された者、その家族、その要因を作った者がおりなす映画だが、映画全体に流れるのは『どうしようもない閉塞感』だ。「目の前に海があったら もうその先どこにも行かれんような気がする」と語る清水祐一(妻夫木聡)。その祐一が殺したことを告白し、自首しようする車の中で馬込光代(深津絵里)が「私ー。祐一と出会ってやっと幸せなれると思うたよ。私待つけん。何年でも よかね」雨の中、警察に入ろうとする祐一の背後の車から光代がクラクションを鳴らす。行くなと。二人は灯台にこもる。

 この映画『心中物かな?』とその時思った。この映画から、学生時代に溝口健二監督のオールナイト映画で観た『近松物語、昭和29年(1954)公開』を思いだした。

Photo_9   不義密通の誤解から逃れる香川京子演じる『おさん』と手代の長谷川一夫が演じた『茂兵衛』

の二人が湖に入水する直前、舟の上で二人の体を紐で結びながら「茂兵衛は、とうからお慕い申しておりました」とおさんに愛を告白する茂兵衛。おさんは「今の言葉で死ねんようになった... 生きていたい...」二人は深い闇の小舟の上で抱き合う。心中をやめ、生きることを決めるシーンは美しい。しかし捕縛され、背中合わせに縛られ馬に乗せられ刑場に運ばれていくラストシーン。後ろ手に手を握り合うおさんと茂兵衛の晴れ晴れとした表情。そこには「生きる」二人を描いている。

 溝口健二作品の中で『赤線地帯』のラストの三益愛子の「よってらっしゃい」と手招く表情とあわせて最も好きなラストシーンの映画の一つだ。

 

Photo_6 『フラワガール』は明るい。「あなたはこの作品で何回泣きましたか?」そんな問いかけを受ける映画だ。

 「踊り」を媒介としてダンスの先生、松雪泰子・フラガールの蒼井優、徳永えり、山崎静代、蒼井優の母親役の富司純子、兄の豊川悦司、常磐観光社長の岸部一徳などの人物が変わっていく姿がはっきり見えて来る。「変化、変身」の過程がラストのフラダンスで映画の中の観客と伴に感動の拍手に導いていく手法はさすがキネマ旬報ベストワンの映画だ。

Photo_2   『悪人』『フラワガール』の2作品に共通するのは何か?

 それは『再生』ではないか。

 暗い炭鉱の街から、フラダンスを媒介として人も暮らしも変えていく『再生』。

 閉塞感の中から拠って立つところを見出していく悪人、この作品も人としての『再生』を描いている。被害者娘の父、石橋佳男(柄本明)が殺人の要因を作った学生にスパナを持ち襲うシーンで語るセリフが実に胸に響いた。

 「大切なんはおるねん。その人の幸せな様子を思うだけで自分までうれしくなってくるような人は。今の世の中、大切な人もおらん人間が多すぎる。自分には失うもんがないち思い込んで、それで強くなった気になっとう。だけんやろ、自分が余裕のある人間と思いくさって、失ったり欲しかったりする人をバカにした目で眺めとう。そうじゃないとよ。それじゃ人間はダメとよ」脅える学生に向かい「そうやって生きていかんね。ずうと人のことば笑(わろ)うて生きていかんね」

 ラスト、殺人現場の橋の上。被害者の父(柄本明)と殺人者の恋人(深津絵里)とは挨拶、会話も交わさないシーン。「彼は悪人なんですよ」とつぶやく光代。被害者との間には「殺人」という大きな事実が存在していることを描いている。見事なラストだ。

 向き合う生活の中で生きていく拠り所。見出していきましょう。

                              《夢野銀次》

  

 

 

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