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佐々木譲著書の『警官の条件』は『警官の血』の続き

Photo 佐々木譲の最新作品の『警官の条件』を読んだ。冒頭の部分が『警官の血』の加賀谷仁警部が警務官に覚せい剤取締で連行されるところから始まる。この部分は『警官の血』、加賀谷の部下の安城和也がうたう(告発)ところと同じとなっている。『警官の血』から続いている著書となっている。

 2007年に出された『警官の血』は読み応えのある作品だった。戦後の上野界隈の描写から始まり、昭和32年(1957年)に起きた心中による谷中天王寺五重塔の焼失。その時に安城和也の祖父、天王寺駐在所の安城清二は跨線橋から落下し、死亡した。五重塔の焼失の責任をとり自殺扱いとされたのだ。五重塔の隣にあった駐在所から残された親子3人はアパートへと引っ越した。息子の安城民雄(安城和也の父)は警官へと進むが、公安の指示で北大に警官のまま進学し、赤軍派の動向をさぐる潜入者となる。だが、潜入のストレスから精神的破壊者となる。

 精神療養から立ち直った安城民雄は父、清二と同じ天王寺駐在所勤務となる。そして、父の死の謎を追う。そこには2つの時効となった殺人事件があり、ほぼ犯人が分かりかけた時、人質事件において籠城犯から狙撃され、安城民雄が殉職する。実際は恐怖心がなくなるPTSDの再発で自殺なのだが、その原因は小説の最後に分かる。三代目の安城和也は母に暴力をふるい、人格破綻者となった父を憎みながら警官となる。勤務は警務課の支持で暴力団との癒着が強い加賀谷仁警部の部下となり、彼をうたうすることだった。

Photo_2  加賀谷をうたうことの任務を受けた時、和也は上司にどうして私なのかと理由を問う。『血だ。きみにはいい警察官の血が流れている。こんなイレギュラ―な任務に耐えられるだけのね』と課長は答える。

 『警官の条件』では、警視庁を追われた加賀谷警部が復帰し、組織対策課同士の争いをからめ、ラストには警官であることの証明であるホイッスルの吹鳴で終わる。加賀谷警部は警官だったことを伝えている。安城和也との直接の会話はない。加賀谷の安城への想いが、今少し分かりずらい。和也へのやり残したことでの誘導なのか? 上司が部下を鍛える根底には、ある思いがある。組織への姿勢なのか、仕事を遂行する誇りなのか、同僚への対応なのか、それらを伝えながら教えていく。『世話かけやがって』と最後につぶやく加賀谷。「あ・う・ん」の呼吸なのかな。

 わたしが佐々木譲の作品で好きなところは『追跡』の描写だ。テレビドラマ化となった『エトロフ発緊急電』では日系アメリカのスパイ、ケニー斉藤とこれを追跡する磯田憲兵(ドラマでは秋野大作が演じてる。印象の強い演技だった)との追跡。東京―青森―函館―根室―択捉間は小説、テレビドラマとも迫力ある描写となっていた。沢口靖子の「ゆき」も一途な想いを寄せる演技は良かった。バックにはアイルランド民謡の曲が北の果ての荒涼とした異国を思わせたりもした。佐々木譲はやはり『無国籍人』をモチーフとする作家なのかなと思ったりもした。

 『警官の血』では公安として潜入した北大生、安城民雄が70年代全共闘運動から派生した『赤軍派』の集会(実は武力訓練)に加わるため、札幌―函館―青森―上野―新宿―塩山との行程での公安との連絡する描写にとてもリアルで迫力を感じた。Photo_4
 この時代、公安の潜入者は実際に存在していたのだろう。

 『警官の条件』では覚せい剤卸元者と、それを車で追跡する安城和也率いる組織対策課の面々とのやりとり。これも佐々木譲らしいスピーディな追跡描写となっている。

 3年前、『警官の血』がテレビドラマ化される時(ドラマは見なかった)、友人と共に上野西洋美術館(終戦直後は浮浪児のたまり場)から谷中墓地に向けて散策した。駐在所と五重塔の跡地を見た。その向こうは日暮里の駅。坂道を歩きながら、東京にもこうしたひっそりと佇む街並みがあることを知った。今にも路地裏から近所の子供たちの歓声とわめき声が聞こえてきそうな気がした。

警官の条件 Book 警官の条件

著者:佐々木 譲
販売元:新潮社
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                                 《夢野銀次》

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