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彷徨う母娘に何が見える―映画「八日目の蝉」

Mzihphfbung170x170751_2  昨年(平成23年)4月に公開された「八日目の蝉」をDVDで観た。悲しい映画だと感じた。主演の永作博美はブルーリボン・キネマ旬報主演女優賞を受賞した。因みにキネマ旬報ベストテンの5位。原作は読んでいないが直木賞作家の角田光代。監督が今一番乗っている成島出。脚本が奥寺佐渡子。

 愛人の赤ん坊を誘拐し、その赤ん坊に薫と名付けて疑似母娘として4年間逃避行をする野々宮希和子(永作博美)。実の両親の所に戻っても冷え冷えとした親子の関係となる秋山恵理菜(井上真央)。恵理菜は妻子ある男の子供を宿す。かつて施設(エンジェルホーム)で恵理菜と一緒だった安藤千草(小池栄子)が恵理菜の前に現れ、野々宮希和子が母娘として逃避行して過ごしたエンジェルホーム、小豆島に共に行く。映画は恵理菜の現在の生活と過去との姿を浮かび上がらせていく。

Sub3_large1_2  他人の赤ん坊を誘拐すること自体、許されない行為である。そのことを知りつつ、希和子は4歳まで成長してく薫(渡邉このみ)に愛情を注ぐ。母としての喜び噛みしめる姿は、よけい現在の恵理菜の姿が苦渋となって画面に浮かび上がってくる。「蝉は七日目に死ぬ。八日目まで生きた蝉は何を見る?」。その問いかけが恵理菜と千草の過去への旅を進めてく。

  小Osk2011070400081_4豆島の生活で母としての愛情を一杯に受ける薫。小豆島八十八か所霊場めぐりの洞窟。村芝居。二十四の瞳の小学校跡地。そして火で稲の虫を退治し豊作を願う行事「虫送り」が映し出される。

 「灯(とも)せ灯せ」と親子で声を掛けながら青々とした水田に火手(ほて)と呼ばれる松明をかざして歩くシーンは実に印象的な場面となってくる。

Osk2011070400091_3  昨年の7月9日、日本の棚田百選に選ばれている小豆島中山の中山千枚田一帯で「虫送り」が7年ぶりに復活したという。小豆島住民がこの映画「八日目の蝉」で多数のエキストラとして参加したことがきっかけとなっての再開だ。

  映画はこの「虫送り」の報道写真の中で希和子と薫が写っていた。希和子は捜査の手が伸びてくることを予感し、小豆島から出ようとする。

Sub4_large1_2  写真館で二人は写真を撮る。

 このシーンで自分のお袋を思い出した。お袋が亡くなる一年前、吉祥寺の自分のアパートで一週間暮らした。兄がお袋を車で迎えに来る前の日、お袋と一緒に井の頭公園やサンロードを二人で歩いた。写真館があった。「一緒に写真撮ろうかな」とその時思ったが、しなかった。今も後悔している。大人になってからはお袋と一緒の写真は無い。

  迎えに来た兄の車に乗る前にお袋は言った。『飯はゆっくり食べな。給料が安くとも二人ならやっていけるんだから早く結婚しな』と。お袋から受けた愛情、返せなかった。ある人は言う「5歳までで子供は親孝行したんだ」と。しかしそれは親子孝行をしなかった子供への慰めの言葉にすぎない。

Sub2_large1  訪れた写真館で5年前に希和子が写真を受け取りにきたことを知る恵理菜。映画のラストはその写真館から走り、倒れるように坐る恵理菜は千草に語る。

 『憎みたくなかったんだよ。お母さんのこともお父さんのことも。この島に戻りたかった。本当は戻りたかった。でもそんなこと考えちゃいけないと思っていた』『わたし働くよ。働いていろんなもの見せてあげるの。かわいい服を着させて、おいしいもの食べさせて、何にも心配いらないよっておしえてあげる。世界で一番好きだよと何度も言うよ』『わたし何でだろう。もうこの子が好きだって、まだ顔も見ていないのに、何でだろう...』。

  自分の幼いころの体験に蓋をしたままの生活から、しっかりと見据えて生活していこうとする恵理菜を描いて映画は終わる。『この娘はまだ何も食べていないのよ』と刑事に連行される永作博美の激号と写真館での薫に寄り添う演技は母の愛の表情として凄みを増していた。大人の身勝手な欲望から彷徨う恵理菜。そして産まれてくる子供も同じように苦しむことが予感される。恵理菜はこれで良いのだろうか?

 そうこの映画は私に問いかけてきていると思えた。

                           《夢野銀次》

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