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昭和からの電話が鳴る―NHK土曜ドラマ「64(ロクヨン)」

Jkt_rokuyon_011  「しっかりしてくれ!」「悔しいですよ、東京の奴ら(記者)にやられっぱなしで」「うちの県警がバカ呼ばわれるのが耐えられない」とD県警広報官、三上義信(ピエール瀧)に泣きながら攻め寄るD県警本部詰めの地元記者たち。

  誘拐事件の発生で東京から記者たちがどっと押し寄せての記者会見場。会見説明するのは若いキャリアの捜査2課長。記者からの質問にはほとんど答えられず、質問のたびごとに捜査本部に行き帰しての報告会見となってしまっている。刑事部長を記者会見に引き出すため、2課長を「伝書鳩」として往復を繰り返えさせる記者会見場。地元記者たちはたまりかねて、三上広報官へ詰め寄るシーン(第4話「顔」)。

 直前まで、広報室と記者クラブは「匿名問題」でギクシャクした関係だった。原作「64(ロクヨン)」の著者の横山秀夫は、著書の中で、こうした地元記者たちの言動を、「三上にも覚えがある。初めての勤務地は特別だ。親の庇護を離れて自活する。仕事を覚え、道を覚え、店を覚え、住み、食べ、眠り、悩み、己の両足で大地を踏みしめる。本当の自分が生まれた場所なのだ。故郷以上の故郷なのだ。その地が蹂躙された。それが悔しくて悲しくてならないのだ」と書いている。東京が地方を見下しているかのようなシーンでもある。

1280x720x64b8299d1597b8a5c7b9cb91_2  NHK土曜ドラマ「64(ロクヨン)」は昨年の平成27年(2015)4月18日から5回に渡って放送された。主役はNHKドラマ初主役になる県警広報官役としてのピエール瀧。「昭和な顔」が残っていることが決めてとなったという。原作-横山秀夫、脚本-大森寿美男、音楽-大友良英、演出—井上剛、増田静雄のスタッフ。DVDを借りて観ることができた。なかなか重厚な作品になっているというのが第1印象だ。

  この作品は平成27年度(第70回)文化庁芸術祭大賞(テレビドラマ部門)を受賞している。テレビ部門大賞は平成8年から設けられているが、私はよく知らない賞である。平成9年度フジテレビ「町」、13年度TBS「僕はあした十八になる」、15年度TBS「さとうきび畑の唄」、25年度度関西テレビ「みんなの学校」と大賞作品になっているが、私自身観ていない。映画では「文部省芸術祭参加作品」で映し出され、なじみのあった頃を思い出す。このタイトルがでると「いい映画なのだ」と子供心に思ったりしていた。文化庁芸術祭大賞は凄い賞なのかどうもピンとこない。

64efbc88e383ade382afe383a8e383b3efb  ウエブで過去のテレビ部門の芸術祭受賞作品を検索してみる。すると、昭和33年TBS「私は貝になりたい」、昭和53年NHK「天城越え」、昭和54年朝日「戦後最大の誘拐、吉展ちゃん誘拐事件」、昭和62年フジ「北の国から、87初恋」、平成3年NHK「西郷札」、平成4年フジ「北の国から、92巣立ち」、平成5年NHK「清左衛門残日記、第10回夢」、平成7年NHK「大地の子、第2部・5部」となっている。凄い作品が受賞していることにびっくりした。これらの作品はもう一度、何度でも観たいテレビドラマ作品なのだ。やっぱり評価の高い賞なのだと思えてきた。

  「64(ロクヨン)」のテレビ大賞受賞理由は、「警察内部を舞台に、『組織と個人』という永遠のテーマを、極めてダイナミックに描いて突出した面白さがあった。大森寿美男の脚本の図太い構成力、井上剛の硬質でエネルギッシな演出。そしてピエール瀧の大胆な主役起用など合わせ技が非常な濃密なドラマを成立させた。第1回、第4回、第5回の各話を通して多重な人物関係がサスペンスを増幅させてゆき、その語りの手際が群を抜いていた」との評価になっている。語りの手際というところに、物語が一本に結びついていく筋立になっているということが評価を受けての受賞なのだ。ちなみ受賞は第1回の「窓」、第4回の「顔」と第5回の「指」ということになっている。

1280x720x8df7b73a7820f4aef47864f1  「昭和からの電話なのか」と思えてくる黒電話からの呼び鈴。そのアップが印象深い作品になっている。

 ドラマは地方県警を舞台に、昭和64年と平成14年にまたがる2つの誘拐事件を、主人公の三上広報官を通して描いている。

 小渕官房長官による年号が「平成」と発表されるテレビの映像がバックに映し出される。その昭和64年の1月7日の少女誘拐殺人事件は「ロクヨン事件」と言われ未解決のまま、時効の15年目を迎える平成14年の12月。「ロクヨン事件」とまったく同じように「サトウ」と名乗る者から娘を人質に2千万円の誘拐事件が起こる。

Mig5   昭和64年の「ロクヨン事件」では、警察の電話録音の失敗で犯人の声を保存できなかった。そのミスを書いた「幸田メモ」をキーワードとして、被害者父親の雨宮芳夫(段田安則)との警察との関係不信、警察刑事部の隠ぺい、刑事部と警務部との対立、刑事部長を本庁キャリアに据えようとする人事面等を尖ったセリフ回しで描き出している。

  さらには交通事故の加害者の「匿名問題」から地元記者クラブとギクシャクな関係となる広報室。また、三上の高校1年のひとり娘失踪(家出)と夫婦の苦悩、親子の繋がりを描くなど、そのギクシャクな関係が幾筋かに絡み合って進行し、ドラマは昭和64年と同じように平成14年の誘拐事件を迎える。

B0296300_201707501  誘拐事件による報道協定の記者会見場。情報を出し渋る県警の姿勢に白兵戦さながらの記者会見場になってしまっていた。捜査本部に入室拒否されている三上広報官は独自に1課長の松岡参事官(柴田恭平)に接触する。松岡参事官とは「クロヨン事件」を共に捜査2課の刑事として捜査した間柄であった。松岡は被害者の父親だけの実名を明かすが、妻と娘の名前は「言えることと言えないことがある」として拒絶する。

  さらに三上は松岡から広報官として誘拐事件指揮車に乗ることが許される。指揮車から情報を記者会見場の部下の諏訪(新井浩文)に流す。指揮車内からの犯人と現金を運ぶ被害者父、眼崎正人(尾美としのり)とのやりとりは緊迫したシーンは臨場感があふれてくる。

M_64857761  指揮車に誘拐されていた娘が万引き犯として補導されたことの一報が入る。三上は人質の無事を早くパニック状態で現金を運んでいる父親に知らせるべきだと進言する。松岡は三上に、「この車は今、クロヨンの捜査指揮を執っている。14年前に言った筈だ。昭和64年は終わっていない。必ずホシを引きずりもどすと」。

  ――松岡の凛とした言動は14年間の捜査への執念を現しており、迫力ある柴田恭平の演技だ。

  空地に着いた眼崎は犯人の指示で身代金2千万円の紙幣を燃やす。その時、自宅の妻から娘が無事であったことの連絡が入る。犯人からメモ書きには「ロクヨンの犯人はお前だ」と書かれてあった。

Castpic_021_3  事件が終わり、帰宅した三上は妻の美那子(木村佳乃)に話す。元婦警だった美那子も「ロクヨン事件」に関与していた。そのため、ある人物がいるかどうか現認して欲しいと松岡参事官から特命を帯びて、紙幣を燃やしてしまう現場となった空地に行っていたのだ。そこで、燃え上がる紙幣の煙を見上げる雨宮を発見している。

 三上は、「参事官は確信していたのだ。無言電話から…。14年前まで警察官宅の電話番号が載っていた電話番号帳。警察関連者宅への無言電話を結んでいく。マツオカ、ミカミ、ミユキ、ムラクシ。マミムメ、…あいうえおの順番になっている。それだけではない。10日前にも眼崎の家に無言電話があった。14年前、雨宮さんはもう一度、犯人の声を聴けば、絶対に判ると言っていた」。警察官宅が載っていた14年前、昭和63年版の電話帳がヒントになっていた。美那子「雨宮さんが無言電話かけていたの?」。昭和からの電話であったことが語られてくるシーンだ。

1280x720x8df7b73a7820f4aef47864f2  夕暮れ時の公園の中にある公衆電話ボックス。電話ボックスに入る雨宮。手にはしわくちゃになっている古い電話帳を持っている。電話帳を見ながら電話をかけ続ける雨宮。「昭和63年当時の電話帳をめくって、アから順番に番号を押し続ける。気の遠くなる話だ。雨宮さんにとって犯人の声を探すことが生きる希望だったんだ」と語る三上。

  美那子は、「わたしも雨宮さんの無言電話を聴いたのね」と失踪した娘、ゆかりからの電話ではなかったことを知る。

538x310x8136d6502e9d22dc2ee42ca21  「…雨宮さん、ついにその声、聴いたのね」と美那子。

  ――その声、「はい、眼崎です。もしも-し。カスミだろう」。…犯人の声を聴いた雨宮。電話ボックスからはいずりながら出る。「眼崎、眼崎」とつぶやきながら電話帳のページを切りとり、よろけるように暗闇となった公園を歩きはじめる。見つけることができた。やり遂げた。雨宮の歩く姿は昭和からの電話をかけ続けた父親の執念が映し出されてくる。

 現場空地が見える橋の上。野次馬の中を歩く雨宮。「雨宮さん、ジーと空、見上げてた。誰かに、何かを報告するみたいに、ジーと空、見上げてた」と美那子のセリフがダブル。段田安則の演技が凄くいい。

160327_saitama_41_2   平成28年3月27日に監禁されていた女子中学生が東中野駅の公衆電話の前で警察に保護された。2年間にわたり監禁されていたのだ。失踪なのか、両親はビラを配るなど、娘の行方を探しつづけ、電話をずーと待っていたのだ。そして、娘からの電話があったのだ。

  警察には平成25年には「行方不明者届」が83,948人あり、年間8万人の行方不明者が発生するという。そのうち10代の失踪者は23.7%で全体の4分の1を占めている(日刊ゲンダイ「2014年7月20日」より)。

  ドラマ「64(ロクヨン)」の三上にも失踪した娘あゆみがいる。その電話を待っている。母親の美那子は三上に話す。「あゆみはネ、生きるために出ていったと思うの。きっとどこかで生きているんだと思うの」と前を向いて生きる娘を信じる。それが、ラストのあゆみからの電話なのかもしれないというシーンにつながっている。

012_021  誘拐事件の犯人がロクヨン事件の被害者であったこと。そのロクヨン事件で犯人の声を録音できなかったミス。そのミスを14年間刑事部が隠ぺいしてきたことなどを広報室3人の部下たちに話す三上。「眼崎逮捕でマスコミとの関係は死ぬ。どうやって再構築をするか各々で考えてもらいたい」と。

  部下の美雪(山本美月)は三上に言う。「わたしは、マスコミとの関係が死んでも、たとえ背中を向けられても、あきらめずに背中でもいいからノックし続けることが大切だと思います。絶えまずにです」。三上は「…絶えまずに」と自分に言い聞かせるように応える。

  記者会見場における情報の出し渋りなど、何故そうするのか分からない場面など、多々ある。しかし、同期の人事権を持つ二渡警務部調査官(吉田栄作)に三上は脅すように言う。「俺を広報室から(捜査課に)異動させるな。参事官が会見に臨む時、広報官としてお供をしたいのだ」という台詞から熱いものを感じ、気持ちよく観ることができた。美那子や美雪からのセリフからも人との関係の道筋が見えてきそうな気がしてくる。さすがテレビドラマ大賞受賞作品だと改めて感嘆した作品だ。

Yjimage7 三上広報官は捜査課の元刑事。三上刑事という刑事の名前で石原裕次郎と高倉健が演じている。昭和39年日活正月映画の「赤いハンカチ」。石原裕次郎が演った元刑事の名前が「三上次郎」。哀愁の漂う主題歌を歌う中で、男の無念と切なさを描いた裕次郎の姿が浮かんでくる。

 さらに高倉健が演じた昭和55年の倉本聡脚本「駅STATION」の刑事役名も「三上英次」だった。「舟唄」をバックに人への悲しい拒絶を描いた人間模様の名作だ。同じ「三上」という名前の刑事が3名いたことになる。偶然なのかな…。何だかうれしくなってきた。                              

                            《夢野銀次》

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